東京高等裁判所 平成12年(ネ)507号 判決 2000年9月06日
控訴人(本訴被告・反訴原告)
有限会社両毛米穀
右代表者代表取締役
A
控訴人(本訴被告・反訴原告)
A
控訴人(本訴被告・反訴原告)
B
右控訴人ら訴訟代理人弁護士
小室貴司
被控訴人(本訴原告・反訴被告)
株式会社諸長商店
右代表者代表取締役
C
被控訴人(本訴原告)
D
被控訴人(本訴原告)
E
被控訴人(本訴原告)
F
被控訴人(本訴原告)
G
被控訴人(本訴原告)
H
被控訴人(本訴原告)
I
被控訴人(本訴原告)
J
被控訴人(本訴原告)
K
被控訴人(本訴原告)
L
被控訴人(本訴原告)
M
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士
畑七起
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2(本訴請求について)
被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
3(反訴請求について)
(一) 被控訴人株式会社諸長商店(以下「被控訴人諸長商店」という。)は、控訴人有限会社両毛米穀(以下「控訴人両毛米穀」という。)に対し金一〇〇万円、控訴人A及び同Bに対しそれぞれ金五〇万円を支払え。
(二) 被控訴人諸長商店は、控訴人らに対し、別紙謝罪広告目録記載の広告文を毎日新聞群馬版、朝日新聞群馬版、東京新聞群馬版、上毛新聞の各朝刊にそれぞれ掲載せよ。
4 訴訟費用は、第一、第二審を通じ、被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二当事者の主張
一 当事者の主張は、次のとおり削除、付加し、後記二、三のとおり当審における主張を追加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決五頁七行目「米袋販売業者」から一〇行目「無断で」までを削る。
2 同七頁一一行目を削る。
3 同一二頁七行目「一〇号」の次に「(現行法の同項一二号。以下同じ。)」を加える。
二 控訴人らの主張
1 保護法益の欠缺
原判決は、被控訴人諸長商店には食糧管理法違反の事実があると認めながら、不正競争防止法上の保護法益が欠けるものではないと判断するが、その論拠は納得し得ないものである。
また、被控訴人諸長商店は、農林水産省が消費者保護の見地から食品の品質表示について定めるガイドラインにおいて、平成九年一二月二五日まで米に関して使用が禁止されていた「有機」、「特別栽培」、「土づくり三年」との表示を本件原告米袋において使用し、さらに同米袋の「十人の農家が特別な栽培方法で作った日本一の米」という趣旨の表示は、右ガイドラインの禁止する「実際のものより、著しく優良または有利であると誤認させる用語」、「通常の栽培方法により栽培された農作物よりも優良または有利であると誤認させる用語」等にも該当するものである。原判決は、このような農林行政指導との関係について全く触れていない。
さらに、被控訴人諸長商店が本件原告米袋に「株式会社日本穀物検定協会」なる架空の検定機関の表示をしていたとの控訴人らの主張につき、原判決は、甲二の一、二を根拠に、本件原告米袋には、本件被告米袋に記載されている「株式会社日本穀物検定協会」の記載はない旨の認定をしている。しかし、甲二の一、二の米袋には、平成七年一一月一日から実施された食糧庁精米表示基準に基づく表示があるから、この米袋は同日以降に作成されたものであることが明らかであり、したがって、同日以前に作成された本件被告米袋の基になった別の米袋が存在していたはずであり、その米袋には本件被告米袋と同一の「株式会社日本穀物検定協会」との記載があったはずである。
2 本件被告米袋の使用の承諾
控訴人両毛米穀は、被控訴人諸長商店から本件被告米袋を使用する承諾を得ていた。このことは、もっぱら魚沼産コシヒカリの販売促進を意図していた被控訴人諸長商店には承諾を拒む理由がないこと、被控訴人諸長商店は、その作成した米袋について厳格な取扱いをしていなかったこと、被控訴人諸長商店が控訴人らによる本件被告米袋の使用の事実を知ったときにとった行動は、事前の承諾がないとすると不合理なものであることから明らかである。
3 誤認惹起行為について
原判決は、本件原告米袋及び本件被告米袋の表示は、「新潟県<以下略>で生産され、原告生産農家らが袋記載の栽培基準に従って生産した性質、実質、属性を持つコシヒカリである」と認定するが、生産農家の写真が掲載されているのは、親しみを与えるためのものにすぎず、生産者であることを担保する表示ではない。同米袋を見た消費者にとって購買の動機となるのは、日本一の魚沼産コシヒカリとの表示であり、この表示の趣旨もそのように理解すべきである。そして、控訴人らは、本件原告米袋に魚沼産コシヒカリ一等米を詰めて販売していたのであるから、何ら不正競争行為(誤認惹起行為)となるものではない。
4 損害の算定について
原判決は、争点3(控訴人両毛米穀は本件被告米袋にどのような米を詰めたか)の判断において、平成八年六月六日に控訴人両毛米穀が被控訴人諸長商店から購入した魚沼産コシヒカリ一等米八二一〇キログラムは本件被告米袋に詰められなかったとして、これを除外して判断しているが、少なくとも右同日から苦情電話のあった同月一二日まで又は本件被告米袋を返品した同年七月一日までの間は、右購入に係る米の販売を妨げる事情はないから、原判決の右認定は誤りである。
5 反訴請求について
原判決は、反訴請求が、右2の承諾を得ていたことを前提として構成しているが、右承諾は反訴請求の前提となるものではない。すなわち、控訴人両毛米穀が被控訴人諸長商店から本件被告米袋を使用する承諾を得ていなかったとしても、被控訴人諸長商店において、米袋の無断使用を非難するに止まらず、その内容物の調査確認をすることもなく、表示と異なる偽米を販売した旨の主張をしたことは、必要な権利行使の限度を超えるものであり、控訴人らの信用名誉を毀損する不法行為を構成するというべきである。
三 被控訴人らの主張
控訴人らの右主張は争う。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、本訴請求は原判決が認容した限度で理由があり、反訴請求は理由がないと判断するものであり、その理由は、控訴人らの当審における主張に対して以下のとおり判断するほかは、原判決事実及び理由欄の「第四 争点に対する判断」と同じであるから、これを引用する。
一 保護法益の欠缺について
証拠(乙三八、四〇、五五)によれば、農林水産省は、有機栽培や無農薬栽培に係る農作物の表示の統一を図るため、平成四年一〇月に「有機農作物等に係る青果物等特別表示ガイドライン」(その後「有機農作物及び特別栽培農作物に係る表示ガイドライン」と改正)を制定したこと、しかし、このガイドラインは米・麦を対象としていなかったため、平成九年一二月二五日に米・麦についてもガイドラインの対象とする改正を行い、米・麦について有機栽培等の表示を行うときには、同ガイドラインに従った表示をするよう指導が行われるようになったことが認められる。したがって、被控訴人諸長商店が本件原告米袋において使用していた「有機特別栽培米」等の表示は、右平成九年改正後のガイドラインの対象となる表示であるが、被控訴人諸長商店は、同改正以前においてこの表示を使用していたことになる。この点につき、控訴人らは、米に関し農林行政指導上禁止されていた表示を行った違法な行為であるとして、不正競争法防止法等の保護法益の欠缺を主張するが、そもそも右ガイドラインは法律上の根拠に基づかない行政指導としての性格に止まるものであるから、右ガイドラインの存在及び改正経緯から直ちに、右ガイドラインの改正前における「有機特別栽培米」等の表示を違法とすることはできず(他にその違法性を根拠づける主張立証もない。)、また、仮に、被控訴人諸長商店が使用していた「有機特別栽培米」等の表示が農林行政指導と抵触する表示であったとしても、このことが私法関係に当然に影響を及ぼすような事情とは到底解し得ないから、不正競争防止法等における保護法益を喪失させるものとは認められない。
次に、本件原告米袋に「株式会社日本穀物検定協会」なる検定機関の表示がなされていたとの控訴人ら主張事実については、本件全証拠を総合してもこれを認めるに足りず、また、仮に、同検定機関の表示がなされていたとしても、これが「財団法人日本穀物検定協会」の単純なミスプリントであることは明らかであるから、そのような表示の誤りを理由として、本件原告米袋に関し不正競争防止法等に係る保護法益を失うと解することはできない。
以上のほか、被控訴人諸長商店の食糧管理法違反の事実を含め、控訴人らが主張する諸事情を最大限に考慮しても、不正競争防止法等に係る保護法益の欠缺をいう控訴人らの主張は理由がない。
二 本件被告米袋の使用の承諾について
控訴人らは、被控訴人諸長商店から本件被告米袋を使用する承諾を得ていたとして、その根拠として、もっぱら魚沼産コシヒカリの販売促進を意図していた被控訴人諸長商店には承諾を拒む理由がないなどと主張する。しかし、被控訴人諸長商店代表者本人によれば、被控訴人諸長商店が本件原告米袋を使用した米の販売を行った理由は、特定の生産農家と提携することを通じて、低化学肥料、低農薬を基本とした有機栽培米として差別化の図られた商品開発を行うという点にあったことは明らかであり、そうである以上、そのような表示に合致した内容の米を販売すべくその管理に当たることは当然である。本件原告米袋の表示を前提としつつ、魚沼産コシヒカリでありさえすれば、特定された生産農家とは全く関係のない米を販売してもよいという取扱いがなされたとすれば、消費者に対する欺瞞であることは明白であって、一般的な商道徳に照らしても到底是認することができない詐欺的な商法として指弾されることは当然であるから、本件原告米袋による販売方法における集荷責任者である被控訴人諸長商店としては、自らによる販売はもとより、同様の表示を用いる第三者による販売に関しても、このような商法を容認することは通常考えられないというべきである。そして、控訴人らは、控訴人らがこのような商法を行うことを前提として、本件被告米袋の使用の承諾を求めたにほかならないから、被控訴人諸長商店がこれを簡単に承諾するとは考えられないというべきであって、これとは逆に承諾を拒む理由がないという控訴人らの主張は根拠がなく、到底採用することができない。その他、控訴人らが当審で主張する諸事情及び本件全証拠を総合しても、本件被告米袋の使用に係る被控訴人諸長商店の承諾があったことを認めることはできない。
三 誤認惹起行為について
控訴人らは、本件原告米袋及び本件被告米袋の表示は、特定の生産者を担保する趣旨ではなく、魚沼産コシヒカリであることを示すにすぎないと主張するが、「私たちが作りました」、生産農家一〇名の顔写真及び氏名、「新潟県<以下略>産コシヒカリ」、「有機特別栽培米」、「この米は、次の栽培基準に従って栽培されたことを確認しています。」などの記載からすると、原判決の認定するとおり、「新潟県<以下略>で生産され、原告生産農家らが袋記載の栽培基準に従って生産した性質、実質、属性を持つコシヒカリである。」との趣旨の表示であることは、明白というべきである。控訴人らの主張する右解釈は、公正な競争秩序の維持を図る不正競争防止法の趣旨に照らしても、到底採用することができない。
四 損害の算定について
控訴人らは、争点3に関する原判決の判断中、控訴人両毛米穀が本件被告米袋に詰めた米として、平成八年六月六日に仕入れた魚沼産コシヒカリ一等米八二一〇キログラムを除外している点を論難する。しかし、仕入れから販売までが数日で回転するような商品ないし販売形態であればともかく、控訴人両毛米穀の被控訴人諸長商店からの魚沼産コシヒカリ一等米の仕入れは、原判決別表五記載のとおり、一〇か月から八か月の間隔を置いて行われていること、また、控訴人両毛米穀は、平成八年六月六日の購入に先立って、同年五月三〇日にはチラシ(甲五)で本件被告米袋を使用した米の広告を行っており、この時点でもなお相当程度の在庫が残っていたと考えるのが合理的であること、他方、平成八年六月一二日に控訴人両毛米穀に対してなされた被控訴人諸長商店からの苦情の電話は相当厳しいニュアンスであったことが窺われる(控訴人A本人)うえ、その後間もない同年七月一日には本件被告米袋は返品になっていること、平成八年六月六日から同月一二日までのわずか一週間の間に特に集中的に本件被告米袋による販売が行われたといった事情も認められないこと等を総合すると、平成八年六月六日に購入した米が本件被告米袋に詰めて販売されることはなかったと推認するのが相当である。この点の控訴人らの主張は採用できない。
五 反訴請求について
本件反訴請求は、控訴人両毛米穀が被控訴人諸長商店から本件被告米袋を使用する承諾を得ていたかどうかとは関係なく、理由がないというべきである。すなわち、控訴人両毛米穀が、本件被告米袋に表示された生産農家らの栽培によらず、その表示された栽培基準にも準拠しておらず、六日町産との産地とも異なる米を販売したことは控訴人らの自認するとおりであり、かつ、本件被告米袋の表示は右三で認定したとおりに解釈されるべきものであるから、控訴人らは、表示と異なる偽米を販売したにほかならない。控訴人らのこの販売活動により重大な営業上の不利益を生じた被控訴人諸長商店において、控訴人らの本件被告米袋に係る米は偽米であると主張し、これを非難することは当然であり、何ら違法ということはできない。
六 以上によれば、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六五条一項本文、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)
<以下省略>